誰かが行動を起こせば、何人もの人を助けられる。僕らのつくった早矢仕ライスでみんなに元気になってもらいたい。/石神英樹さんbistro sanglier 久助

石神英樹さんbistro sanglier久助

山県市出身の医師で実業家の早矢仕 有的のオリジナル料理が起源といわれているハヤシライス。その歴史的背景から、山県市には、ハヤシライスづくりにこだわる地元有志の会「山県早矢仕ライス研究所」があります。会の参加者で、山県早矢仕ライスを提供している「bistro sanglier久助」のオーナーシェフ・石神英樹さんに話を聞きました。

「最初は『一國会(早矢仕ライス研究所)』という名前で15名からスタートしたんです。そのきっかけは、東日本大震災でのボランティア活動。被災地同様、山県市も年配の方が多く、独居の人も多いです。もし地元で災害が起きた時には、行政に頼るだけでなく深い連携が必要だと痛感しました」と石神さん。

着目したのは、山県市美山地区出身の早矢仕有的(はやし ゆうてき)が、友人に滋養をつけさせるため、牛肉と野菜を煮たものを振る舞ったといわれる“早矢仕ライス”でした。「栄養たっぷりで、これなら誰もが元気になれる。どうせ作るならきちんとしたものを作りたいと、素人集団なりに何でもやる意欲で始めました」

震災の翌年から活動を開始した石神さんたちは、地元の祭りに出店したり、地元のプロサッカーチーム応援のために出店したりと、まさに東奔西走。
「年間4000食から5000食を作りました。玉ねぎだけで年間3トン使っているのですが、メンバー全員が素人なので、玉ねぎを切るだけで疲れてしまうんですよね。牛肉は飛騨牛を使っていて、100人分で7キロ、年間だと約350キロ使いました。みんな仕事をやりながら集まっていたので、大変でしたね」。こうして試行錯誤を重ね、地元の食材を生かしたレシピの開発に成功しました。

災害時も役立つ、レトルトを開発

早矢仕ライス研究所は、「どうしたら山県早矢仕ライスを周知できるか」「カレーに勝つことはできるのか」など、日々研究を重ねていきました。その結果、山県市で早矢仕ライスを食べられる店を作ることが、ハヤシライス発祥の地として象徴的だということになりました。そして調理士免許を持っていた石神さんに白羽の矢が立ち、2014年にこの店をオープンさせることになりました。その後、石神さんは店の運営で多忙になり、それぞれのメンバーもそれぞれの仕事で忙しくなるなど、イベント参加が困難になっていきます。そこで、石神さんのアイデアで、早矢仕ライスのレトルトを開発することになったのです。

石神さんは、店舗経営と同時進行で、山県早矢仕ライスの味をレトルトで再現できるパートナーを探し、13回も試作を繰り返しました。そしてメンバーと検討を重ね、早矢仕ライスのレトルトを完成させました。「早矢仕ライスレトルトの利益は出てないです。そもそも利益を求めていませんから。災害時は、レトルトが本当に重宝するんです。お湯を沸かすだけで温かいものが食べられますし、牛肉、玉ねぎ、マッシュルームが入っていて栄養価も高いです。それで元気になってもらえたら、本当にうれしいです」と、石神さんは話します。

まだまだ若い世代には負けられない

東日本大震災をはじめ、さまざまな災害場所に駆けつけるエネルギッシュな石神さん。その生い立ちを伺うと、「親から『橋の下で拾った子だ。だから自分で生きていきなさい』と常々言われてました(笑)。兄弟が上に2人、下に1人。家業が八百屋で皆忙しく働いていたので、自分の食べるものは見よう見まねで作っていました」と話してくれました。

石神さんが生まれたのは山県市の柿野。当時、全校生徒たった15名の学校に通っていました。1985年に地元の高校を卒業して上京すると、飲食の仕事に就き、東京で13年間働きました。その後、山県市に戻って洋食店を開こうと考えたそうですが、洋食文化がまだ地元に浸透していなかったことから、当時盛んだったゴルフ場の造成などを手掛ける建築関係の仕事を生業としました。
「いろいろな業種の仲間がいますので、何でもできると自信をもっています。それに、誰も引き受けないことがあるとするなら、自分がやるつもりでいます。僕らは、まだまだ若い世代に負けたくないし、誰かが行動を起こせば何人もの人を助けられるんじゃないかと思っています」と石神さん。
山県早矢仕ハヤシライスを提供できる店として必要に迫られてのオープンでしたが、石神さんの人柄なのか、食事だけを目的に来るお客様は半分。もう半分は石神さんに話を聞いてほしいお客様なのだそうです。

豊かな自然の中で、肩肘を張らない生活

東京での生活は楽しい半面、「どこか人とのつながりが少なく感じていた」という石神さん。この山県での人との出会い、そして何より豊かな自然ときれいな空気の中での、肩肘張らない生活が気に入っています。「2019年の春新たにキッチンカーも購入して機動力がでました。どこでも行けますよ!」と語る石神さん。今日も山県で、誰かのためにおいしい早矢仕ライスを、心を込めて煮込んでいます。

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