人が内面に持つさまざまな『コト』を映像に映し出したい。/細沼孝之株式会社kotofilm代表

山県市葛原地区。美山杉が林立する美しい山に囲まれ、清流・武儀川に沿って国道418号が続く一帯です。大きく開かれた古民家の窓から見える巨大なテーブルが、圧倒的な存在感を放っています。東京の映像作家・細沼孝之さんが、自身が代表を務める株式会社kotofilmの拠点として山県市を選んだ理由や、この地でこれからチャレンジしていきたいことを聞きました。

ゆっくり流れる時間と人の温かさ

細沼さんは埼玉県出身。大学で映像を学び、卒業後はフリーランスとして活動しました。山県市に縁ができたのは2017年、同市のシティプロモーションも携わった時でした。仕事でたびたび訪れるようになり、美しく豊かな自然や、人のあたたかさに魅了されていきます。山県市について何も知らないところから飛び込みましたが、撮影のたびに肌で魅力を感じていったそうです。地元の方との対話を重ねて、その仕事では地元目線の「地元の人が好きな山県市」を撮ることができました。「その時から、自分にとって山県が特別な場所になりました」と細沼さん。

その後、映像を撮るだけでなく、映画制作ワークショップの案内人を担当するなど、「撮る」ことを切り口にさまざまな形で山県市との関わりを深めていきました。
山県市には東京では撮れない風景や自然、人の表情があります。「時間がゆっくり流れ、被写体や地元の人と心ゆくまで向き合うことができ、仕事なのに満たされた気持ちになる。訪れる間に“第二のふるさと”みたいに思えてきたんです」と細沼さん。

事務所のシンボルは「オール山県」の作業机

そんなときに持ち上がったのが「山県市に拠点をつくらないか」という仕事仲間からの誘い。「ルールに縛られるのが得意ではないから」とフリーランスを貫いてきた一方で、個人の限界を感じることもあり、チームがあるほうが仕事の幅が広がると感じていました。折しも、新型コロナの感染拡大によって、世の中の働き方への意識は大きく変化。東京だけにこだわる必要性もなくなり、どこかで会社をつくるなら、心地良さを感じている山県市に会社を設立しようと考え、古民家をリノベーションして拠点にする決心を固めました。

事務所をつくるにあたってこだわったのは「大きな作業机」です。東京の仕事場では撮影機材などを置くのに狭さを感じているため「とにかく大きさがほしいと思っていたら、どんどん大きくなり、結果3メートル四方になりました」とにっこり。この立派な机は、地元の株式会社藤岡木工所の藤岡さんに依頼して山県市産の美山杉を加工、山県市特産の伊自良大実柿(いじらおおみがき)の柿渋を塗料として、柿BUSHIの加藤さんの協力で仕上げた、いわば「オール山県」の製品。夢見たことが、地元の力で実現しました。

できたばかりの大きな机を前に、どんな光景が目に浮かんでいますか。そう尋ねると「いろんな人が机を共有している様子ですね。仕事を持ち寄って、やることは別々だけれど、机が人同士をつないでいる。そういう場所にしたいです」。

岐阜に映画文化を醸成したい

今後、細沼さんは東京と山県を行き来するそう。拠点を2つ持つことは細沼さんに何をもたらすのでしょう。「精神的にはすごくリフレッシュできますね。山県では、東京とは違う自分になれる、違う自分を出せるような気がする。だから作るものの幅も広がると思います」。東京で慌ただしく広告制作などをするときは、自分らしさを押し殺して表現せざるを得ないこともあるそう。「クライアントを尊重する仕事だから、折り合いをつけるのが当然です。でも苦しくなるときがある。山県市で思いっきり自由に表現活動ができれば、バランスも取れるのかと思います」。

kotofilmの社名は「人が内面に持つさまざまな『コト』を映像に映し出したい」という細沼さんの思いから。コトは経験や思い、その人にまつわるエピソードのことだそう。
「人生ってコトの積み重ねだと思うのでそれを引き出したい。個人にフォーカスした仕事をしたい」と細沼さん。「キャストとスタッフがこの大きな作業机を囲んで、台本を読み合わせる初日が、僕の夢の光景」と目を輝かせました。「岐阜県にはまだ映画文化が深く根付いていないですが、コンテンツは素晴らしいものがある。いつか映画祭を開けるくらい文化を醸成できるといい。その真ん中に自分がいられたら幸せです。
心の中に描いた大きな夢を言葉にした後、細沼さんはとびきりの笑顔を見せてくれました。

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