続けてきたからこその技術力で新しいアイデアを形に。古きを守り、新しきを創る。/山口真矢さん山口製作所代表

山口製作所代表

「水栓バルブ発祥の地」として知られる山県市美山地区。この地に根を張り65年、青銅鋳造の技を磨き続ける山口製作所を訪ねました。
話を伺うのは山口真矢(しんや)社長。「祖父が昭和32年に創業しました。最初は小さな工場でね、物心ついたときには毎日のように金属を溶かす作業を見ていました」と懐かしそうに話してくれました。

「水栓バルブのメッカ」に根差して65年

水栓バルブとは水道の水を出したり止めたり流量を調節したりする蛇口のこと。家の台所にも洗面所にもついている、アレです。美山地区は第二次大戦後、水栓作りから水道関係の鋳造産業が生まれ、発展し、現在は関連事業も含めて百社以上が集積する「水栓バルブのメッカ」なのです。

山口製作所は、水道管を接合するパーツや水道メーターのケースなどを主に製造。銅などの金属を溶かして型に流し込み、固める「鋳造」から、寸法通りに削ったりネジの溝を切ったりする「機械加工」、目に見えない穴が開いていないかなどの「検査」、さらに組み立てまでを行います。

「うちの強みは“鋳肌”の美しさです」と山口さん。鋳物は「砂型」と呼ばれる砂を固めた型に流し込んで作ります。この砂型作りと、溶かした金属を流しいれる作業が、技量を問われる職人技。その日の砂の状態や、製品の大きさ・形状によって変える微妙なさじ加減は、長年培った経験あればこそです。

技術力×アイデアでユニークな商品開発

近年、安価な樹脂製品が出回っていることや、銅など原料の高騰から「業界を取り巻く環境は厳しい」と山口さん。美山でも工場をたたむ会社もあるそう。そんな中、活路を見出そうと、技術力とアイデアを掛け合わせ生み出した商品が、真鍮製の「マリンランプ」と、青銅製の「銅鉢」でした。

マリンランプを作るきっかけは約20年前、船上で使うランプのケース部分の製造を名古屋にあるマリンランプメーカーから依頼されたことでした。真鍮素材は潮風を受けてもさびにくく、丈夫で美しさが持続することが特長。好評を博しましたが、やはりここにも安くて軽い樹脂製品が台頭し需要が激減。製造終了かと肩を落としていたところ、なんと依頼元である名古屋のマリンランプメーカーから「一般向けに売ってみよう」と提案が。それで「マリンランプを“陸に上げ”たんです(笑)」。東京の展示会に出店すると、他にないアイデアと洗練されたデザインが人気を呼び、関東や東北の住宅メーカーやネット通販を手掛ける会社から引き合いがあったそう。現在はガーデニンググッズや住宅設備、カフェなどの店舗用にも人気です。

山県市にある喫茶店などでも見られるか尋ねると、「うん…まぁいくらかね、うん、使ってもらってるけど…」と控えめに照れ笑いする山口さん。これから市内のお店に入るときは、照明にも注目してみますね。

ミニ盆栽や多肉植物の鉢、苔玉の受け皿として開発したのは、手のひらサイズのかわいらしい銅鉢。同社の強みである「鋳肌の美しさ」が、いかんなく発揮されています。四角や六角、ネコ型などさまざまな形があり、青銅の性質上、ナメクジをよせつけないので庭でも使いやすいそう。

最大の特徴は、時間が経つとともに変化する風合いです。初めはブロンズ色ですが、空気に触れるうちに「緑青(ろくしょう)」と呼ばれるサビの一種が生 じ、徐々に深い青緑色に。植物とともに鉢も育てる楽しさを味わえます。

新工場で新たな領域にチャレンジ

山口さんが社長を引き継いだのは2020年。「創業者の祖父が努力して技術を確立し、2代目の父と3代目の叔父の代で工場と設備を拡充して量産体制ができた。ここからは私がしっかりつなぐ番です」

厳しい現状の中でも原料の高騰は特に痛手で、「これまでにない単価。値上がり分を価格に反映するのも難しく、なかなか大変です」。しかし手をこまねいているわけではありません。メイン工場の隣地で新工場建設に着手、ここでは樹脂の成型機など新しい機械を導入予定だそう。

完成すれば扱う材質や作れるものの種類が大幅に増え、異素材を組み合わせた製品の製造も可能に。「ガーデニング用品やシャワーなど、自社のオリジナル商品も展開したい」と山口さんは意欲を見せます。

新しいことにチャレンジする一方、「受け継いだ青銅鋳造は今後も事業の柱です」ときっぱり。「銅合金の鋳物は全国的にも珍しく、守るべき技術。やり続けます」。これまで、技術力と信頼関係を元に、小ロットなど手のかかる仕事もいとわず引き受けることで発展してきた山口製作所。「これからもお客様本位を貫いて精進します」と笑顔をみせ てくれました。

follow us