55年の留守の後でも温かく迎えてくれた山県。地元の素材のおいしさをみんなに知ってもらいたい。/田中功さん Patisserie Yamami代表

「洋菓子店の空白地帯にとびっきりおいしいケーキ屋さんができた!」と評判の「Patisserie Yamami(パティスリー ヤマミ)」。2021年4月にオープンしたこのお店を切り盛りするのは田中功(いさお)さんご夫婦。パティシエの功さんが70歳で始めたというからそのエネルギーには驚きます。お店に伺いお話を聞きました

のんびりするつもりで帰ってきたけれど

国道418号沿いにある店舗は、山の稜線をかたどったロゴマークの看板が目印。「主人は美山の出身でね、大好きなふるさとの地名を組み替えて『やまみ』っていう店名にしたんです」と奥さんが教えてくれました。

自然光の差し込む明るい店内には、ケーキや焼き菓子などのスイーツが合わせて30種類以上。開店と同時にお客さんが来て10個ほどまとめて購入されたのを見ても、そのおいしさが想像できます。

功さんは、中学卒業後すぐ故郷の山県市を離れました。和菓子店と洋菓子店の修行を重ね、40歳のとき、名古屋で自身の店を開業。地域の人々に愛され繁盛しましたが、30周年を区切りとして惜しまれつつ店をたたみ、「のんびり暮らすつもりで」、長年戻りたかった山県市へUターンしました。

美山地域での住まいを探していたところ「うまい具合に…というか、元工場だった建物が付いた空き家に出会って『ここならケーキも作れるね』って主人が」と笑う奥さん。「『もう引退だ』なんて言いながらやっぱりやりたかったんでしょうね」。

店に、ケーキにこだわり詰め込んで

物件が決まってエンジンがかかった功さんは、奥さんを巻き込んでお店の準備に奔走しました。内装の譲れないこだわりは「美山杉を使うこと」だったそう。都会で働き詰めの頃、折に触れて懐かしんだふるさとの風景は、美しい山々。地元で踏み出す新たな一歩のしるしに、名産の美山杉をあしらい、木のぬくもりあふれるお店が完成しました。

ケーキ作りで大切にすることは「季節感」と「素材の良さ」。「ケーキで季節の移り変わりを楽しんでもらえたら」という奥さんの声を聞きながらショーケースを覗き込むと、今が旬のイチゴがずらり。ギフト用チョコレートも種類豊富です。実は取材前日の2月3日にロケハンで伺ったときには「恵方巻」と名付けられたロールケーキが!節分の縁起物にちなんだスイーツが一日だけ登場するなんて、なんだかわくわくします。

「材料はなるべく地元のものを」と、小麦粉、卵、牛乳は岐阜県産を使用。果物もできる限り県内産を納入してもらえるよう、業者に依頼しているとのこと。「名古屋や愛知の食材が悪かったというわけではなくて、地元の食材をおいしく食べてもらおうって。身近にある素材の良さを改めて知ってもらいたいですね」。

地域に愛され働く喜び

山県にはたまに帰省する程度で、15歳から70歳までずっと県外で忙しく働いてきた功さん。55年の“留守”を経て地元でお店を開くと、昔なじみが次々に訪れてくれました。「主人がうれしそうで…頑張ってよかったと思いました」と奥さんもしみじみ。近くに住む人からが「このあたりはケーキ屋さんがなかったからすごく嬉しい」とリピーターになってくれたり、名古屋時代の常連のお客さんが、高速道路を利用してたびたび買いに来てくれたりもするそう。

最初は「焼き菓子だけでこじんまりとした店」をイメージしていたという奥さん。「年齢もあるし、名古屋時代と違ってスタッフは雇わないし、やるとしても本当に小さくって私は思ってたんですけどね。まさかここまでやるとはね」と苦笑いしながらも、楽しそうです。功さんは、週2日の定休日のうち1日は仕込みに没頭してしまうとか。新商品の開発にも余念がなく、「いつの間にか焼き菓子の種類がどんどん増えちゃって(笑)」。

ところで、お二人のなれそめをお聞きしてもいいですか…。「昔、就職した洋菓子の会社を辞めた後、やっぱりケーキ屋さんで働きたくて。いいお店を見つけてアルバイトに応募したのが主人の店で、それがご縁よ」。
なんて素敵な出会い!

帰り道の車内、行儀が悪いのを承知でさっそくシュークリームをほおばると、サクサクのシューに豊かなクリームがたっぷりで、一口ごとにうっとり幸せな気分。まだ食べ終わっていないのに、また買いに行きたくなりました。

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